つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
橋本 道男 様
橋本 道男先生
事業内容 :研究内容
玄米とその加工米(超高水圧加圧玄米)の特性評価~機能性と良食味の両立を目指して~
話者 : 島根大学 医学部 客員教授 橋本 道男

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アルツハイマー型認知症への効果が期待される 超高水圧加圧玄米で健康寿命を長く保ちましょう

現在、日本の高齢者のうち約20%(※)の人々が認知症にかかっていると言われています。認知症を発症させないためには、継続的な運動のほかに、普段の食生活にも気をつけなければなりません。その健康的な食生活のひとつとして、玄米食が有効だということが最近の研究で分かってきました。玄米とアルツハイマー型認知症との間に、一体どんな関係があるのでしょう? このことについて研究されている島根大学の橋本道男先生に詳しいお話を伺いました。

 

魚に含まれるDHAの研究から玄米の効果に迫る

橋本 道男先生

私は島根県で認知症の研究をライフワークにしています。近年は、アルツハイマー型認知症と食事の関係についての研究をメインにしていて、最初は魚食との関係について調べていました。魚油に多く含まれるオメガ3系脂肪酸であるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が当時の私の専門分野で、DHAは脳の機能に、EPAは体の免疫や循環に深く関わることが分かっています。ただ、人間の脳にはデルタ6不飽和化酵素というものが存在せずDHAを自ら生成できないので、普段の食事から継続的に摂取する必要があります。

ところが、最近の日本では魚を食べる人が減っています。理由は、欧米の食べ物や肉の摂取が増えたこと、そして魚のニオイや調理の手間を嫌う傾向にあることなどが挙げられます。

魚を食べないことでDHAやEPAが不足し、体に悪影響を及ぼす可能性が高まります。特に高齢者の場合、アルツハイマー型認知症をはじめ脳の機能に悪い影響が出ることが指摘されています。そこで、魚油の代わりになるものはないだろうかと考えていたところ、島根県と島根県産業技術センターから「少子高齢化が進んで中山間地域の元気がない。地元の活性化のために何かできることはないだろうか」という相談を受けたのです。島根県の中山間地域では主にお米を育てています。そこで「お米を地域の活性化と健康のために役立てたい」と、GABAなど、脳の健康に良いと言われている成分を多く含んでいる玄米の食事の研究をはじめました。

 

軽自動車6台分の圧力をかけた玄米に驚きの効果

白米の約8倍の食物繊維と豊富なビタミンBやミネラルを含む玄米は、数日水に浸けると芽が出るほどの、非常に栄養価の高い米です。また、GABAと呼ばれる含有成分は、脳の興奮を抑え、ストレスを軽減する効果があります。同時に、脳の血流を向上させ、脳細胞の代謝を促進します。さらに、玄米に含まれるフェルラ酸は、アルツハイマー型認知症の予防に効果があると報告されています。

ただし、玄米は白米に比べて硬いため高齢者にとって食べにくいのが難点なので、それを克服するために、高水圧加工で炊き上げようということになりました。私たちの高圧処理は他府県とは少し違います。他府県の高水圧加工はだいたい2000気圧までですが、島根県はその3倍の6000気圧で炊き上げます。6000気圧とは、1立法センチメートルあたりにつき6トンの加重――軽自動車6台分の圧力をかけることになります。これを私たちは「超高水圧加圧玄米」と名づけて特許を取得しました。この超高水圧加圧玄米だと、かなり白米に近い柔らかさになり、高齢者の方にも食べやすいものになります。

この超高水圧加圧玄米は、島根県産業技術センターと島根大学の医学部、そして同志社大学の生命医科学部との共同研究によって、アルツハイマー型認知症を発症するときの主な危険因子であるアミロイド・β・タンパク質の脳内沈着を抑える作用があることがわかりました。また、その他にも骨密度の増加、やる気の向上などの効果もあるというエビデンスも取得しています。

 

超高水圧加圧玄米は、魚に代わる抗アルツハイマー病の食べ物

実を言うと、それまでの私は炭水化物をできるだけ摂らないようにしていて、お米も1日1食しか食べない食生活を送っていました。たしかに、炭水化物の摂りすぎは良くないと言われています。肥満や糖尿病の人たちは糖質制限をしたほうがいいでしょう。しかし、こうして玄米を高圧で柔らかくして食べやすいものにし、自分の研究でも骨代謝異常や認知機能低下を予防するのに有効だということが分ってくると、食べ方を工夫すればお米だって健康にいい食材になるじゃないかと、考えを改めるようになりました。

魚は今後、日本が獲る前に他の国がたくさん獲ってしまうかもしれないので、食べる量はどんどん減っていくと思います。その点、お米は自給率がほぼ100%なので、自国でまかなえます。だからそれらのことを全部プラスに考えて、これからの現代人は玄米を食べるように心がけるといいのではないでしょうか。

 

飽食の時代の現代人こそ、玄米を意識して食べてほしい

橋本 道男先生

これは私の推測ですが、おそらく今後、日本の平均寿命はどんどん短くなっていくのではないでしょうか。理由は先ほど言った食生活の変化です。日本古来の魚と穀物を中心とした食事から、ジャンクフードやインスタント食品でお腹を満たす食事に変わってきています。最近になってようやく健康寿命が大事だと言われ出して、年々延びているというデータが出ていますが、これはまだまだ誤差の範囲です。客観的にデータを見てもゼロコンマ数年の範囲でしかなく、ほんの少し延びたにすぎません。実際に健康な高齢者が増えているのは確かですが、それは団塊の世代が年をとってきたからです。その後に続く世代はどうかというと、私は大きな疑問を感じます。

今の若い人たちは私たちと違って、小さい頃から好きな物を好きなだけ食べられています。まさに飽食の時代の世代です。だから栄養が偏って、放っておいたら平均寿命も健康寿命もまた短くなってしまうのではと危惧しています。若い人たちは、自分で意識して健康にいいものを食べようと心がけないといけません。そうしないと自分たちが高齢者になったとき、それこそ健康寿命を考えたら、困るのは自分たちなのです。そのきっかけに、フェルラ酸やGABA、ビタミンやミネラルなどをたくさん含んでいる良質な玄米を食べる習慣をつけていただけたらと思っています。

 

 

(プロフィール)

橋本 道男(はしもと みちお)

富山大学大学院修了。医学博士。島根医科大学助手、助教授を経て、2003年島根大学医学部准教授に就任。2016年3月研究教授を退職後、同年4月より同大学医学部特任教授に就任し、2021年4月より現職。日本認知症学会、日本脂質栄養学会、日本神経科学会、応用薬理研究会、日本油化学会、日本栄養・食糧学会、日本薬理学会、日本生理学会に所属し、幅広く活躍。01年日本脂質栄養学会ランズ学術賞、23年第22回日本油化学会オレオサイエンス賞受賞。

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