
人口減少に伴い、国内のお米の消費量は減少の一途をたどっています。そんな中、全農グループの米卸として精米事業を主軸に展開する全農パールライス株式会社が、千葉県千葉市に新たな米粉工場を建設し、米粉事業へ本格的に乗り出しました。「精米」という枠組みを超え、パンや麺といった幅広い形態でお米が消費される未来を目指す同社の取り組み。その背景には、日本の農業を支えたいという強い使命感がありました。そんな米粉事業にかける想いを、代表取締役社長の山本貞郎氏に伺いました。
全農パールライスの主要な事業は、産地から玄米を仕入れ、工場で精米して袋に詰め、量販店やスーパー、生協、外食事業者、コンビニなどに納めることです。私たちは全農グループの米卸として、お米を売るという仕事を通じ、日本の農業や生産者の方々の経営・生活を支えることを常に意識しながら仕事を展開してきました。
現在、日本の人口は減少し続けており、お米の消費量も減ってきています。しかし柱である精米事業については、たとえ消費が落ち込んだとしても、維持・拡大を目指す路線に揺らぎはありません。産地のお米を責任を持って精米し、消費者の皆さまへお届けし続ける。この使命は、これからも変わることはないでしょう。
また、お米の消費減少は、日本の原風景である田んぼが失われてしまう危機をも招きかねません。こうした状況を打破すべく、私たちは「お米」を軸とした多角的な事業拡大を推進してきました。さらに2030年ビジョンに掲げる「お米の総合食品企業」への進化を目指し、次世代に向けた新たな価値の創出にも力を注いでいます。
全農パールライスではお米の消費拡大に向け、パックご飯の増産、輸出、そして米粉事業を三本の柱に据えています。この三本目の柱をさらに強固に打ち立てるため、役員会で米粉事業の必要性を提起したのは、約3年半前のことでした。お米の消費が落ち込む中、形を変えてでも日本産を使い続けることが農業への貢献につながる。お米をそのまま食べるだけでなく、パンや麺としても消費される未来を作る。それが生産者の「お米をもっと作ろう」という意欲を生みだすはずだと考えたのです。
2025年9月、当社は千葉県千葉市にJAグループ初となる年間1,150トン規模の大型米粉工場を建設しました。これまで米粉は小麦粉の代替品として限定的にしか使われず、100%米粉ではパンが膨らまないという技術的課題を抱えていました。この状況を変えたのが、新工場における最新の製法と品種の最適な組み合わせです。
長年精米機で信頼を寄せるメーカーとタッグを組み、澱粉損傷を抑えて粒度を安定させる最新鋭の「湿式気流粉砕」を導入。さらに粉に適した専用品種を選択することで、小麦代替として遜色のない高品質な米粉を実現しています。
同時に、製造コストの低減も最重要課題として見据えています。これまで培ってきた精米技術を活かし、大量生産でいかにコストを抑えられるか。その挑戦が、米粉の本格的な普及を実現する鍵だと確信しています。

実は私は、この工場建設前から製パン大手や生協、洋菓子店等へ足を運び、入念な出口戦略を練ってきました。工場が完成してから営業を始めたのでは遅すぎる。使い手の反応を確かめ、顧客を確保した上で着工に踏み切る必要があったからです。
築野食品さんも、こめ油と米粉を使ってグルテンフリーのスイーツやパンを作っていますよね。将来的に、こめ油で揚げた「米粉100%のカレーパン」など、完全グルテンフリーの商品を開発するのも面白いと思います。そんな構想を今、着実に膨らませているところです。
とはいえ、正直に言うと、米粉事業のネックは数えればきりがありません。
事業を志した約3年半前、米粉市場では年間4,000トン規模の製造が「大手」とされていました。数百万トンを扱う小麦業界に比べれば、米粉は機械自体がまだ成熟しておらず、大量生産の体制が整っていなかったのです。
そのため、製造コストも必然的に高くなり、飲食店や食品メーカーからは「米粉を使いたいけれど、この価格では継続できない」という切実な声を何度も耳にしました。「安価で安定的に供給できる体制を整えなければ、米粉の未来はない」――そう確信した私は、今後の市場拡大とコストダウンを実現すべく、精米機械メーカーと共に新たな米粉製造機の検討を開始しました。
しかし、高い理想を掲げて走り出した一方で、実際の現場はまさに「よちよち歩き」の状態でした。品質管理も衛生面も、すべてが手探り。お米の「粒」ではなく「粉」を扱うため、粉塵が舞い散ったらどう掃除すればいいのか。そんな基本的なところからのスタートだったのです。
さらに、昨今の「米の原価高騰」も新たな壁となっています。主食用米が高値で取引される現在、生産者に米粉用米への転換を依頼しても、理解を得るのが難しい現実があります。生産者が作る意欲を持てなければ、この事業は伸びません。補助金の体系を含め、どうあるべきか。農水省や全農へもしっかりと問いかけをしていきたいと考えています。誰かがやるのを待つのではなく、私たちがやると決めたこと。このような苦労の先にこそ、次のステップがあると信じています。
日本の田んぼで育ったものが日本の食卓に並び、さらには世界へ打って出る。今がその「最初の一歩」だったのだと、後から振り返って思えるようにしたいですね。
なお、米粉が持つ可能性を実感する機会は、思わぬところにもありました。先日、出張先の愛知県で食べた米粉のバウムクーヘンのおいしさに、確かな手応えを感じたんです。こうした高品質な製品が広まることで、国内のみならず、よりグルテンフリーのニーズが高い海外市場へも挑戦できるのではないかと期待を寄せています。
現在、国内の小麦流通量は年間600万〜800万トン。対して日本の米粉全体はようやく5~6万トンに届くかどうかという規模です。しかし、潜在的なニーズは決して小さくありません。需要は今の倍以上あってもおかしくないはずです。ただ、価格が合わず見送られているのが現状です。そのギャップを埋めるために、生産現場にも頑張ってほしいし、我々も踏ん張りどころでは我慢する。そうして10年後、20年後には、日本で米粉が「当たり前」になっている世界を作りたいですね。そのためにも、機械メーカーさんも含め、みんなで大量生産とコスト低減に挑んでいかなくてはと思っています。
このように、現状を見れば、厳しい道のりであることは間違いありません。目先の損得だけで測れば「やめておけ」という話になりかねない。だからこそ、私はこれからも、体力の続く限り挑戦し続けたいと考えています。農家さんが元気にお米作りを続けられるよう、多様な需要を見つけ出し、必要なお米の姿を生産現場に伝えていく。そのための出口を広げることが、これからの全農パールライスの大きな役割のひとつです。
精米という伝統を守りながら、米粉という新たな価値を創出する。炊き立ての温かいご飯だけでなく、香ばしいパンや喉越しのよい麺、心躍るお菓子へと。お米がより多彩な姿で食卓に並ぶ未来こそが、日本の農業を守る力になる。その信念を胸に、「お米の総合食品企業」として、次世代へとつなぐ一歩を、私たちは今、確かに踏み出しています。

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