つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
二井博美様
事業内容 :動物行動管理学の研究
話者 : 二井博美先生

カテゴリー:

飼料のプロが考える、畜産と米作りの関係

麻布大学大学院獣医研究科で、動物行動管理学の研究を行う二井博美先生。

これまで飼料メーカーにて家畜(主に養牛関係)の技術指導にあたられ、現在も継続して生産現場での指導に取り組まれています。今回は、先生が携わった「飼料用ライスオイル」と「飼料用ライストリエノール混合飼料」の開発秘話やお米に関する魅力などを飼料のプロならでは視点からお話いただきました。

牛は草食動物で植物から栄養をつくる

これまで30年以上、主に牛飼い農家の指導を行ってきました。農家の牧場を直接訪問して生産性を高めることや問題点を解決することを指導しています。「牛飼い」で重要なことは牛が草食動物で草の成分である「植物繊維」(一般的に牧草と呼ばれる)を栄養として利用できることです。牛は胃袋を4つ持っており、その1つである第1胃(ルーメンと呼ばれる)に多くの微生物がいてこれらが植物繊維を分解して栄養にすることができます。すなわち人が利用できないものを栄養にして乳や肉を生産する仕組みを持っています。そのために牛にとって植物繊維は非常に重要なものになります。この牧草は、そのまま食べさせるだけでなく、乾燥(乾草)させたり嫌気性発酵させて貯蔵させたり(サイレージと呼ばれます)して食べさせます(乾草やサイレージを粗飼料と呼びます)。

しかし天候の影響を受けやすく毎年同じ品質のものを作ることは非常に難しいものです。その品質により牛が食べたり食べなかったりして生産に大きな影響があります。粗飼料を必要な量だけ食べないと第1胃の微生物バランスが崩れて生産が低下したり病気になったりします。そのためにどれだけ十分に粗飼料を食べさせられるかが牛飼いの重要なポイントです。

この品質が悪い粗飼料でも食べさせることができる原料を探すことを長く行っていました。その時に米油からの有用成分を開発していた築野食品工業さんと出会いました。いろいろな材料で試験を行いましたがなかなか効果的な材料がありませんでした。

 

おいしい牛肉のために「飼料用ライスオイル」を

それからしばらくして牛肉の脂肪の質を向上させる取り組みを行うことになりました。これは牛肉中の脂肪量が高まってきたことで脂肪が固いと口溶けが悪く美味しく感じなくなることが要因の1つです。脂肪の質についてはオレイン酸含量が影響していることから牛肉中のオレイン酸を高めて融点を下げる検討をすることになりました。脂肪の多い飼料の原料は、トウモロコシや大豆などいろいろありますが、脂肪の質が良い農家が使っていたのが「生米糠」でした。

しかし生米糠は、酸化しやすく夏場には変敗するので気温が高い地域では利用できませんでした。そこで米油であれば酸化や変敗の心配がないので原料として利用するために築野食品工業さんに米油を吸着させた飼料を作ってもらい茨城県畜連さんの直営牧場で給与試験を行った結果、牛肉中のオレイン酸含量が高まることを確認できたことから商品化しました。これは現在脂肪の質を高める商品として「飼料用ライスオイル」で茨城県畜連さんが販売しています。

 

牛の食欲を高めるために

牛にとって重要な粗飼料ですが前述したように品質により食べたり食べなかったりとなり生産に大きな影響を与えています。これを解決させることが個人的な目標の1つでした。

ある時、肉用牛の肥育用配合飼料で原料に含まれている脂肪含量が少なくなり、その対応策を検討することになりました。そこでトウモロコシの胚芽(コーンジャーム)などを検討しましたが上手くいきませんでした。そこで生米糠しか選択肢がなくなり原料として利用できるようにする検討をしました。いろいろ抗酸化原料を試験しましたが結果がでなくて困っていました。ある時、築野食品工業さんの担当者と話していると、副産物でビタミンEを多く含む材料があるが使えないかと相談がありました。私としては、これは生米糠の抗酸化原料になるのではないかと考え、原料を吸着させた飼料を作ってもらい試験を行いました。

その結果はびっくりするくらい効果がありました。原料として混合した配合飼料を30日間保存(8月)したのですが、まったく変敗もしないで給与できたのです。早速新たな規格の配合飼料の製造が始まり販売しました。

その後、この配合飼料を食べさせている農家さんから「この配合飼料は牛が食べすぎる」というクレーム?があり現場に行き調査をすると配合飼料だけでなく粗飼料である稲わらもたくさん食べるようになっていました。これは生米糠の効果ではなく抗酸化を目的に使用している原料である「ライストリエノール」ではないかと調べると、ライストリエノールにはビタミンEだけでなく不鹸化物である植物ステロールを含んでいることがわかりました。この植物ステロールは、牛の第1胃の微生物活性を高める知見があります。すなわち植物ステロールを食べた牛の第1胃の微生物が活性化することで、配合飼料だけでなく粗飼料である稲わらもたくさん食べることがわかりました。このことは第1胃の胃液を用いた培養試験や肉用牛での給与試験で確認しています。

そこで「飼料用ライストリエノール混合飼料」を本格的に販売することになりました。これは個人的には、農家さんがこの商品を、これまで食べない粗飼料(品質の悪い)を食べさせるよう利用していただくことが出来るようになったと考えています(感激です)。

「ライストリエノール」については、ビタミンE(トコフェロール)に比べて抗酸化力も強いことからスーパービタミンEと呼ばれており、牛だけでなく他の家畜にも応用できると思います。

「ライストリエノール」についてのご紹介

 

米と牛の深い関係

 

昔、牛は農耕用として利用されていました。そのために家族の一員として大事にされていました。その昔は今のように配合飼料のような餌はなく、人が食べられないものや余ったものを食べさせていました。その当時は、生米糠やくず米、くず麦、くず大豆などが主体でした。これらを、時には炊き出しのようにして給与していました。この頃は、米作が農業の主力でしたから米からの副産物は牛にとっては重要な飼料の一部でした。これは、日本独自で改良された和牛だからこそ稲わらをうまく利用できるようになっていると思われます。

昔のように戻るわけではありませんが、私自身の研究の1つとして「牛によるイネゼロエミッション」という概念を提案しています。牛を利用することで稲すべてを無駄なく使えることから、現状の米に対する問題解決の一助になればと考えています。

最後に米由来の成分が牛を含む家畜生産に役立つものとしてお話をしてきましたが、家畜で有用であれば人にとっても有用なことになりますので、米に関する研究は意義深いものであると思います。

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