つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
南條 輝志男様
南條 輝志男先生
事業内容 :(研究内容)健康長寿を支えるコメ食の研究
話者 : 和歌山ろうさい病院 病院長 南條 輝志男

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超高齢社会における健康長寿にはコメ食と「和食の力」が不可欠

日本人の食生活は戦後、時代と思考・嗜好の変化により、それまでのコメ食を中心した和食文化に代わり、パン食や肉食、そしてファストフードなど欧米化が急速に進んできました。しかし、それが日本人の健康に少なからず悪影響を及ぼしているということが、昨今の研究からわかってきています。“健康寿命の延伸”のために「和食の力」を提唱している、和歌山ろうさい病院・病院長の南條輝志男先生に、医療の観点からコメ食と和食のメリットについて伺いました。

 

食生活の欧米化は日本人の健康上、好ましくなかった

日本人をはじめ東アジア・東南アジアの人々の多くが農耕民族であったのに対し、欧米人は狩猟民族であったので、長期間にわたり食生活の根本が大きく違っていました。戦後、欧米的な食生活が急激に日本に入ってきて浸透していくと、それまで日本人の食生活に適応していた遺伝子では、欧米の食生活に適応していけなくなってきました。

 

元々、私の専門は糖尿病の遺伝子の研究ですが、食生活の欧米化によって、なぜ日本人に糖尿病が増えてきたかというのは遺伝子を比較するとわかります。

欧米人は、長年にわたる肉食中心で高カロリーな食生活でも血糖が上がらないように、血糖値を下げるホルモンのインスリンがすい臓でどんどん作れる体質になっているため、肥満にはなっても糖尿病にはなりにくい。しかし、日本人は米や野菜を食べるのが主であったので、インスリンを過剰に作れない体質でした。そこに肉食などの新たなものが入ってきて、体が適応できなくなってしまったんです。そのため、軽度の肥満でも、すい臓でのインスリン作成が追いつかなくなって糖尿病になってしまう。こうして食生活の欧米化が引き鉄となって、糖尿病や高脂血症・高血圧などの生活習慣病が日本人に激増したわけで、戦後50・60年の間に糖尿病患者の数は約50倍にもなり、日本の医療界での大きな問題となっています。すなわち農耕民族であった日本人にとって、食生活の欧米化というのは健康の観点からは好ましくないということを、まず認識しておく必要があります。

 

健康寿命を伸ばすために、お米を食べる「和食」を中心にするべき

南條 輝志男先生

私は分子糖尿病学という研究分野を起ち上げて体質や遺伝子に関するいろいろな研究を行ってきましたが、生活習慣病に対する食事療法を考えていく上では、食生活の中心を和食に戻していくべきではないか、特にもっとコメ食を増やすべきだと思っています。

 

お米の良いところ悪いところについてはいろいろなご意見があると思いますが、私は「コメ食は健康に良い」と考えています。ただ、それがなかなか普及しないのは、パン食の方が手軽であるため、特に朝食においてはそうですし、学校の給食もパン食が多くなっています。私は給食でもっと米飯を出すべきだと思うんですが、それがなかなか実現しないという点で、米飯もパンと同じように給食で出しやすい形だったり、手軽に食べられる工夫を、みんなで考えていかなければいけません。

 

米飯と健康の関係性という点においても、「和食の良さ」をもう一度見直すことが必要だと思います。日本糖尿病学会や日本糖尿病協会では食べる順番−すぐにお米を食べずに野菜から食べることや、魚や肉を先に食べてからお米を食べるのが大事だと言っています。洋食では最初から出ているパンを食べながら肉を食べますが、懐石料理では、先に野菜やたんぱく質のものを食べて、最後にお米を食べるようになっています。そういう健康に良いマナーというのが和食にはいろいろあるんです。

また、お米はパンよりもアミノ酸スコアが高い、食物アレルギーになりにくいといったメリットもありますし、他の食材と組み合わせることで料理の多様性にも貢献しています。そういう点からも、健康に良いことが見直されている「和食の良さ」に改めて目を向けて、家庭でもっと和食を採り入れるべきだと思っています。そのためには、和食そしてコメ食をもっと手軽にできるような工夫を、築野食品工業さんをはじめ、他の食品会社や企業にも取り組んでいってほしいと思います。

 

私がそういう考えですから、和歌山ろうさい病院は給食の面ではよその病院には負けない自信を持っています。特にご飯についてはお米の銘柄にもこだわって提供しています。入院されている方にとって食事はとても楽しみで大切なものですから、そこは予算をケチらないようにと心掛けています。メニューも和食が結構多いです。患者さんそれぞれの嗜好もあるので全部和食にはできないし、朝から300人分の食事をご飯で準備するのは大変なのでパン食になってしまいますが、昼と夜は原則コメ食にしています。入院患者さんからは「こんなにおいしい病院はない」と言っていただけますし、私自身が検食しても当院の給食は本当においしいと思います(笑)。

 

お米のすべてを、これからの時代に活かす取り組みに期待

築野食品工業さんは、同じ和歌山県の優良企業ですし、私が和歌山県立医科大学で糖尿病の研究をしていた頃、米ぬかの効能について相談を受けて以来の長いおつきあいですが、企業としての取り組みについてはかねがね立派だなと感じています。

共同研究もいろいろとやってきましたが、中でも糖尿病の合併症抑制の研究で、米油による効果が期待できるという成果を得たことは、とても印象的な思い出です。

 

今後については、今まで捨てていたような米ぬかからの抽出物にもさまざまな有効性があるということがわかってきて、築野さんはそれらをどう活用していくのかという点に注目しています。資源の少ない日本にとって、これからの農業というのは食べ物としてだけじゃなく、薬としても有用ですし、米油にしても今は食用だけですが、工業用途にするにはどうすれば良いかと考えていらっしゃる。地球温暖化という問題の面からも、築野さんの取り組みは1つのモデルケースとして注目されており、大いに期待しています。

 

 

〈プロフィール〉

南條 輝志男(なんじょう きしお)

和歌山県立医科大学卒。米国シカゴ大学留学を経て平成元年より和歌山県立医科大学教授、17年より同大学長、18年より理事長を務める。23年に現職の和歌山ろうさい病院の病院長に就任。また、聖マリアンナ医科大学客員教授(平成22年11月~)、大連医科大学客員教授(平成25年4月~)、江蘇大学客員教授(平成26年1月~)、経済産業省医療産業研究会委員、総務省地方公営企業等経営アドバイザーなど国内外で幅広く活躍。日本内科学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(名誉会員)、日本糖尿病協会 (理事)、日本体質医学会(前理事長)、アジア分子糖尿病学会(理事長)。糖尿病に関わる遺伝子研究により、日本糖尿病学会賞(昭和63年 シオノギ・リリー賞、平成15年 ハーゲドーン賞、平成28年 坂口賞)、日本糖尿病協会アレテウス賞(平成29年)ほか受賞歴多数。

 

南條 輝志男先生

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