つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
仲川 清隆 様
仲川 清隆先生
事業内容 :(研究内容)こめ油に豊富な抗酸化成分をご存じでしょうか?
話者 : 東北大学 大学院農学研究科 仲川 清隆

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こめ油の未知の可能性:酸化の秘密と抗酸化力を探る

米ぬかから作られるこめ油。料理に使えば「揚げ物がサクサクに仕上がる」「風味が豊かになる」「素材の味が引き立つ」など美味しさに貢献してくれますが、その大きな特長は「酸化しにくい」「豊富な機能性成分」という点にあります。かつては主に業務用途に使われていましたが、最近は健康ブームの影響もあって一般家庭でも愛用されるようになっています。そんなこめ油の魅力について、東北大学の仲川清隆先生に詳しいお話を伺いました。

 

ユニークな解析法で油脂が酸化するときにできる「ひび」に刮目

仲川 清隆先生

油脂に酸素がくっつくと「酸化脂質」というものができます。このプロセスを「酸化」と呼ぶのは想像がつくと思います。また、その酸化脂質が分解したり重合したりして、アルデヒドやケトンといった化合物が生成されるのですが、これも酸化のプロセスです。こうして油脂から一次的にできるものも二次的にできるものもひっくるめて、私たちは酸化物と呼んでいます。

酸化物ができるときには何らかの要因があるのですが、それは熱であったり光であったり様々です。たとえば油脂に熱が加わったり光が当たったりすると酸化物ができます。そして、その酸化物にさらに熱や光が加わることで分解したり重合したりもします。しかし、これら酸化物を分析しても熱と光のどちらが要因なのかを見分けるのは困難でした。

それを見分けるにはどうしたらいいのか。分かりやすく例えると、油脂に酸素がくっつく位置に「ひび」ができると思ってください。熱や光で酸化されると、それぞれの要因に応じて特徴的な位置にひびが入るのです。したがって、このひびの位置が解析できれば、どうやって酸化されたかが分かります。また、ひびの位置によって分解や重合するところがおのずと規定されてくるので、どうやって酸化されたのかだけでなく、どのように分解や重合するのかも分かってきます。

ただ、このひびの位置をずっと解析できずに困っていたのですが、ノーベル化学賞を受賞された田中耕一先生で有名になった質量分析装置、さらにはナトリウムを使って有効な解析法を開発することができました。つまり、私たちの解析法を使うと、ナトリウムがひびの位置の情報を精度良く伝えてくれるのです。

手前味噌かもしれませんが、油脂(脂質)の酸化の際に生じるひびを解析することに関しては自信があります。DHAやEPAなどは酸化されやすい二重結合をたくさん持っていますが、それでもひびの位置を決めることができるので、酸化のメカニズムをかなりの精度で見分けられるところまできました。その結果、国内だけでなく海外からも注目され、生体サンプルや食品サンプルだったり、工業原料や植物サンプルだったり、“酸化のメカニズムが知りたい”というご依頼を現在多くいただいております。

 

こめ油を混ぜた調合油には、驚きの抗酸化力がある

油脂には様々な種類がありますが、異なる油脂を混ぜて使う「調合油」としても使われています。この調合油に関して、築野食品さんで取られたデータでとてもびっくりしたものがあります。こめ油を30%、50%、70%、100%の割合で菜種油に混ぜて、プロパナールやアクロレイン(酸化脂質の分解物)が測定されたのですが、こめ油は酸化安定性が高いので、少し混ぜるだけでもプロパナールやアクロレインが出なくなり、さらに、こうした効果は常温付近で際だって高いことが見出されつつあります。このメカニズムを築野食品さんと共同で研究しております。近年は、「かける油」のような常温での油の用途が非常に増えています。また、油脂を輸送するうえでもその保存安定性が課題視されており、例えば、夏の酷暑に輸送される油は、ひどいときには40度を超える温度にも長く耐えなければなりません。こうした現状をふまえると、こめ油を調合した酸化しにくい油を研究し活用していくことは、健康を心がけている人たちはもちろん、SDGsの観点からも世界的にインパクトがある内容であると思っております。

 

こめ油と米ぬかの栄養素は未知の可能性を秘めている

もう一つ、米ぬかから抽出される「γ-オリザノール」について、ぜひお伝えしたいです。γ-オリザノールはコレステロールの吸収抑制や血清コレステロールの低下作用、自律神経の働きを整えるなどの効果が期待されている、貴重な機能性成分です。

みなさんは、こめ油大さじ1杯(14グラム)の中に機能性成分がどれくらい含まれているかご存じでしょうか。よく知られる機能性成分であるビタミンEはこめ油に約6ミリグラム含まれています(ビタミンEの1日の摂取基準量:約5~7ミリグラム)。そして、γ-オリザノールは約30~210ミリグラムも入っています。割合でいうと約0.2~1.5%です。緑茶に含まれるカテキンは0.1%ほどですから、こめ油のγ-オリザノールの量はとても多いと思います。

さて、こうした米ぬかに含まれるγ-オリザノールは単一の成分ではなく、一般的には4種の総称です。この4種に加えて、実はこめ油にはさらにプラス2種含まれていることを、築野食品さんとの共同研究で発見しました。単純に“γ-オリザノールには健康作用があります”と言っても、実は種類によって作用が違ってくる可能性があり、この研究を進めております。

 

酸化を制御することで、油とよりよいおつきあいができる

最後になりますが、単純に、油脂の酸化は悪いものとして捉えられることが多く、このことは少々残念に感じています。例えば、油脂そのものは無味無臭ですが、幾つかの酸化物は、風味などで私たちの食生活を豊かにしてくれていると思います。こうしたことを考えると、酸化は悪いものというよりは、やはり「制御するもの」ではないでしょうか。故に、複雑な酸化の反応をひとつひとつ制御して、私たちにとってより好ましいものをチョイスできるような技術開発を私たちは目指しております。その意味で、酸化しにくいこめ油を利用して、酸化を制御することは非常に有効な手段の一つと考えております。こうした研究を進め、こめ油の魅力がより高まるとよいなと思っております!!

 

 

(プロフィール)

仲川 清隆(なかがわ きよたか)

東北大学農学部卒業。同大学院博士課程修了(農学博士)。1999年日本学術振興会特別研究員、2000年科学技術振興事業団科学技術特別研究員。東北大学大学院農学研究科助手、助教授を経て准教授に就任。13年米国タフツ大学Jean-Mayerヒトの老化栄養研究所客員研究員を経て、16年より東北大学大学院農学研究科教授に就任し現職。分析化学を基盤として、コメをはじめ食品の機能性の評価を研究テーマとし、08年日本栄養・食糧学会奨励賞、12年日本農芸化学会農芸化学奨励賞などを受賞。

 

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