つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
門脇 基二 様
門脇 基二先生
事業内容 :(研究内容)米タンパク質の新規機能性開発
話者 : 新潟大学・新潟工科大学 門脇 基二

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お米に含まれているタンパク質でいきいきとした人生を

お米の主成分はでんぷんですが、微量にタンパク質も含まれていることをご存じですか?実は、お米の中には約6~7%の割合でタンパク質が含まれており、それが近年、健康にとても良いことがわかってきました。それまでお米に含まれているタンパク質はご飯を不味くする不純物と言われたり、日本酒の大吟醸を造るときは雑味として扱われたりとマイナスのイメージばかりがありましたが、新潟大学と新潟工科大学の名誉教授である門脇基二先生の研究によって、そのイメージは払拭されつつあります。そのあたりの詳しいお話を門脇先生にお聞きしました。

 

新潟の田園風景に心を打たれて、お米の研究を決意

そもそも私は当初、お米の研究者ではありませんでした。それまでアメリカ留学が長かったのですが、細胞生物学や生化学の仕事をやっていて、大隅良典先生がノーベル賞を取られて一躍有名になった、オートファジーの研究に専念していました。ご縁があって日本に帰国することになり、新潟大学に赴任することになったのですが、「これから同じ仕事ができるのかな」と不安を抱いていたとき、周りを見ると青々とした稲穂の風景が広がっていたのです。新幹線の車窓から新潟の雄大な田園風景を見ていたら、「やっぱり原点はお米だよな」「いつか将来、お米に関する研究をやってみたい」という気持ちがふつふつと芽生えました。今から30年ほど前の話です。それからずっと生化学の研究とお米の研究を両方してきましたが、この15~20年はお米の研究をメインにして活動してきました。

新潟大学で研究テーマをピックアップするとき、最初は「じゃあ、お米でもやろうか」という軽い気持ちで始めたのですが、だんだん研究に没頭するにつれて「これをライフワークにしたい」という気持ちが強くなり、他の研究分野には目もくれずに、お米の研究をずっとしてきました。今でこそ周りの人たちは、私がお米の研究をしている学者だと認知してくれていますが、生化学を研究していた昔の若い頃を知っている人たちはごく一部になりました。

 

お米の機能性研究をしている学者がほぼいない状態からのスタート

門脇 基二先生

新潟だからお米を研究してみよう。新潟大学に赴任したときの私は、栄養学者というか栄養生化学者というか、そういう観点で日本人が主食にしているお米を栄養学の見地から徹底的に研究してみようと思ったのです。しかし、いざ調べ始めてみると、栄養学の分野でお米のことを研究している人がほとんどいない。他の野菜や果物の機能性研究は盛んで、ポリフェノールやコレステロールなどその他いろんなものをたくさん研究しているのに、なぜかお米を真正面から研究している人はごく少数だったのです。

昭和の時代、戦後しばらくの間は、栄養をとにかく与えなきゃいけない。お米の栽培も増やさなきゃいけない。そのときは、とてもたくさんのお米の研究者がいて、でんぷんの研究が熱心に行われていました。日本のでんぷん科学は世界のトップクラスだったのですが、高度成長期と共にお米を日本国民がそれほど食べなくなってきて、それと共に研究者も減ってきて、またでんぷんの研究も未知のことが多くなくなってきたようです。そうなると、研究者が研究費を取れず…。人気のあるポリフェノールやコレステロールの研究者は研究費が取れるけれど、お米はやっても研究費が取れないので、ほとんど誰も研究をしなくなってしまいました。しかし、食品の研究が栄養だけではなく機能性研究が活発になってきてみると、お米にも何かあるのではないか、それを誰もやらないタンパク質に着目して始めてみよう、ということで私たちはスタートしたのです。

 

あくなきデータ実証で、お米のタンパク質を徹底研究

私はデータを重視する研究者です。だから、「お米は昔から食べているから健康にいいんだ」という感覚的な話ではなく、科学の発達した現代において、お米は現代人にとっても健康に良いということを客観的に納得できるデータを取って勝負すべしと思っています。目下、私の仕事はお米の中でも、特に誰も注目しなかったタンパク質の機能性を調べています。現在、お米の中に約6~7%含まれているタンパク質に、糖尿病や腎臓病などの病気を改善する効果があることを証明するデータが取れてきています。だから、世の中のみなさんに「お米のタンパク質って大豆ほど量は入ってないようだけど、それでもお米を食べることで体の健康機能を維持できるのならいいね」と思ってもらえるとうれしいです。

 

お米・米ぬか由来のタンパク質の機能性商品に注目

これまで運の良いことに、お米(白米)のタンパク質の中に複数の新しい機能性を見つけることができました。たとえば、糖尿病で血糖値を下げるとか、あるいは、脂質代謝でコレステロールを良くするとか、中性脂肪を改善するとか。これらはみなさんのお米に対するイメージと正反対のようですが、お米の中にこうした健康を促進してくれる成分が隠れていたのですね。この辺りに、実はお米を長い間食べ続けるという食習慣が日本人の健康を支えてきた理由があるのかもしれません。日本人は江戸時代から小柄だけれど頑健であったと言われています。さらにその後の研究では、骨の代謝を改善するという思ってもみない機能なども見つけてびっくりしています。現在データをまとめている段階なので詳しい話はまだ言えませんが、近い将来これらも含め、お米のタンパク質の新しい機能性についてまとめてお知らせができると思います。

こうしたお米のタンパク質を世の中に知ってもらい、役立てるためには、誰にでも入手できることが必要です。そこで国内の大手製菓メーカーと共同研究を行い、ようやく2年ほど前に素材を商品化することができました。私たちの20年の研究がようやく花を咲かせて実になりはじめたと言って良いでしょう。これを活用して目下、私たち研究チームはお米のタンパク質の機能の活用法の開発を進めています。これはたとえば栄養状態の良くない、とりわけタンパク質が足りていない高齢者の人たちにとって朗報です。サプリメントの形でおかゆに加えたり、他のいろんなものに混ぜて食べたり、風味を邪魔せずに良質のタンパク質を補給できるのです。また、小麦パンの高タンパク質化にもとても良質な膨らみを与えることもわかってきました。これらの素晴らしい機能は、お米からの素材らしく、色も白く穏やかな風味ですので、応用範囲が広い素材となることでしょう。

私と築野食品さんとは20年間以上のお付き合いになります。こめ油が米ぬかから取るように、米ぬかタンパク質は脱脂米ぬかの成分です。米ぬかタンパク質も私たちの研究対象なので、研究用にご提供いただいてきました。米ぬかタンパク質も白米タンパク質に劣らぬ素晴らしい効果を持っています。共同研究の形で論文も書いています。私としては米ぬか由来のタンパク質でも、今後も様々な新しい機能性研究ができればと期待しています。築野食品さんの今後のご活躍にも注目したいですね。

 

門脇 基二先生

 

(プロフィール)

門脇 基二(かどわき もとに)

東京大学農学部卒業。農学博士。東京大学農学部助手、アメリカ合衆国ペンシルベニア州立大学医学部研究員、新潟大学農学部助教授などを歴任。2010年第64回日本栄養・食糧学会学会賞、13年飯島藤十郎記念食品科学振興財団食品科学賞、15年第68回新潟日報文化賞受賞、21年第15回日本アミノ酸学会功績賞、第75回日本栄養・食糧学会功労賞ほか受賞歴多数。

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