「自産自消」=自分たちでつくり、自分たちで食べてみて、消費する。
かつては生きるための営みだった「農」。今は生活から切り離され、消費者と農が遠く離れたものになっています。株式会社マイファームは、耕作放棄地での農業体験、農業大学、レストランなどを運営。「楽しむ、学ぶ、作る、提供する」の四象限から人と自然を近づけ、自然から学び、農への理解を深めることで日本の農業の活性化を目指しています。耕作放棄地の約7割が元水田。農業の活性化と、お米のこれからについてお話を伺いました。
私が24歳の時に2000平米の畑を借りて、自分で野菜を作り始めたところが当社の原点でした。ところが、収穫した人参を売ってみようと計算したら全く価格が合わないことに気づいたんです。その時 、農業にはびこる問題というのは、野菜が適切に評価されていないことじゃないのか?と思いました。人々が農業に興味をもってくれることが、価格の上昇に繋がるのではないかと考え、人参を作るのを止めて、農業体験ができる農園を始めたんです。
イチゴ狩りなどの収穫だけを楽しむものではなく、一年を通じて農業体験を行ってもらえるようなプログラムを作りました。当社の場合、体験プログラムで約6万円と当時にしては非常に高い値段でした。それでも農園を利用してくださる方々の動機というのが、「将来子供が大きくなった時、いざというときは野菜ぐらい作れるように」とリスク管理で利用されることが多かったんです。その頃から学校教育の中でも農業体験が組み込まれ始めました。
今はただ「楽しい」とか「リフレッシュできる」という方々が増えていますし、6万円という価格に驚かれることも少なくなってきて、やっと価値が上がってきたなと感じています。
実際、社会的にも農業に対して興味や関心を持つ人たちが、ぐんと増えたと思いますね。
更に農業に対する啓蒙を進めたいと、2010年に”アグリイノベーション大学”という農家を学ぶ大学を開校しました。入学者のほとんどが新規で農業を始める方々なので、農業に経営の要素を組み込むことを重視し、それを差別化要素としました。週末や夜間にオンラインで勉強できるような制度も整え、現在は2200人を超える卒業生がいます。
学校の卒業生たちが安心して農業に従事するため、次のステップに対するサポート体制も用意しています。
1つ目は、ソフトバンクテクノロジー社との合弁会社として展開する、農地検索サイトの運営です。最初の大事な要素となる「農地選びで失敗しない」ことをサポートしています。
2つ目が、当社で展開している通信販売で野菜を売ってもらったり、加工した商品の買取サポートを行ったりしています。生産性を重視して作りたいという方々のためには、飲食店やスーパーにまとめて販売する流通業としても対応しています。
3つ目としては、卒業生で農業経営を始める方が増えてきたので、人手不足問題などに対応するため、人材派遣・紹介業も展開しています。
農業の裾野を広げるため、耕作放棄地の再生にも力を入れています。特に、営農が困難であるために耕作放棄地となってしまった中山間地の農地を再生するため、その土地だからこそ可能な収益性の高い作目・作付・経営モデルに挑んでいます。
今当社が全国的に行っているのは、薬草の栽培をして商品化する活動です。昔から奈良で栽培されていたヤマトトウキという薬草があるのですが、その栽培シェアの25%ぐらいは当社が担当しており、“薬草栽培の最大手といえばマイファーム”という認知を頂いております。それらは葛根湯の成分として利用されています。なぜ薬草なのかと言うと、他のトマトやほうれん草などは農家さん達が一生懸命作っているし、やっぱり当社の卒業生でもやりたがる方が多いんです。しかしながら、そこで私達が横並びになって競合してどうするんだろうと考えて。だからみんなが作らないような作物を栽培しようと。それが薬草を選定したポイントです。
農業大学の新入生は、年々低年齢化が進んでいます。昔は退職間際の方が多かったですが、今は20~30代の方が多いですね。大学を始めて10年以上経ちますが、農業の学校というマーケットも広がっていて学校数も増えているので、農業をしたい若い人は確実に増えてきています。一番大きな要因は、今の社会に対するアンチテーゼでしょうか。多様な生き方を模索したり、このままじゃだめだと考えるような、そういう思いが強い若者は一定数いると思います。そういった方々が、TwitterなどのSNSを介してダイレクトに問い合わせてくれることが増えてきて、時代が変わったなと思いますね。
しかし現時点では残念ながら、お米を栽培したいという方は非常に少ないです。お米の価値をみんなが感じていないんだと思います。若い新規就農者の場合、最初はお金がなく農地面積もないという状態からスタートするので、いちごやトマトの方がお米と比べて投資効果が高いんです。お米を作ろうと思ったら土地もある程度の面積が必要というのもあると思います。
でも実は、お米が一番農作業が少なくて、農法にもよりますが、年間で考えたら15日ぐらいしか稼働していないんです。コスパで言えばいいんですよ。だから兼業すればいいと思うんです。
あとはやっぱり、お米の消費量を上げることは必須ですよね。そのためには新たなメニューの開発や、食文化を取り戻さないといけない。生産者側が良いお米を作ろうとか、それに応じた商品開発しようと言ったとしても、それが社会変化に繋がるのは難しいのかなと感じます。だから、川下である消費側から食文化を変えていくのが現実的かと。例えば、お米をフル活用した献立など「この日はお米をたくさん食べる日ですよ」と啓発したり、お米由来のメニューがこんなにあるんです、ということを伝えていく必要があると思います。
国産物でエネルギーを摂ろうと思うとお米が主力になるし、日本においてお米の存在は重要だと思うんです。昨今の世界情勢などを考えると、小麦がどうなるか分からないので、お米がもう一度復権する可能性は十分にある。お米に関する技術って、生産性を上げるにしても、品種改良という側面でも、日本が世界一だと思うんですよ。気候変動でこのまま気温上昇が続くと、2050年には岡山県より南ではお米が作れなくなるという説がありますが、それも日本の技術開発で乗り越えていけると思います。
改めてお米の価値を見直し、工夫や技術を追求していくのが本当に大事だと考えています。