つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
築野 卓夫様
事業内容 :(研究内容)米ぬかをすべて有効活用する社会的意義
本社所在地 :和歌山県伊都郡かつらぎ町新田94
話者 : 築野グループ株式会社 副社長 築野 卓夫
ウェブサイト : https://www.tsuno.co.jp/
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こめ油のリーディングカンパニーとして、米ぬかのすべてを有効活用する社会的意義。

機能性の高さが注目され、今後も需要の高まりが期待されているこめ油。築野食品工業では、原料である米ぬかを無駄なく活用し、SDGsの実現に取り組んでいます。そこで築野食品の三大事業である「食用油脂」「ファインケミカル」「オレオケミカル」を通しての取り組みと、その社会的意義について、築野グループの築野卓夫副社長にお話を伺いました。

 

創業75周年。創始者の想いと米ぬかに託された夢とともに

戦後間もない昭和22年。築野グループは先代の築野政次により、農林水産省指定の精麦工場として創立されました。先代は太平洋戦争の激戦地・ミンダナオ島で終戦を迎えましたが、過酷な状況により食べることに非常に苦労されたと聞いています。その経験から食に関わる仕事を選び、「食糧の安定供給が図れる事業で、社会に貢献したい」との想いで事業をスタートさせました。そうして昭和35年には、米ぬかを原料とする精油業に進出。昭和47年には米ぬかからイノシトールを製造する会社である築野ライスファインケミカルズを立ち上げました。「米ぬかを余すことなく使い切る」ことを目標に米ぬかに無限の可能性を見出し、設備投資に舵を切ったのは2代目であり現社長である築野富美です。その後、医薬品原料製造許可、食品添加物製造許可を取得して事業を拡大、現在は創業75周年を迎えました。

 

弊社を代表する製品であるこめ油をはじめ、弊社のほぼ全ての製品は米ぬかを原料にしたものです。日本人の主食である白米。そこからすれば、米ぬかはその他の部分となります。しかし私たちは創業以来、この「その他の部分」に価値を見いだし、数々の製品化に取り組んできました。特に意識はしていませんでしたが、いま改めて振り返ってみますと、創業以来一貫してサステナブルな思考であったと思います。

 

貴重な米ぬかを、無駄にしない!多様な価値を生み出す循環資源に

こめ油は、主に米ぬかを原料として作られる植物油です。酸化安定性が高く、風味が良いこと、そして米ぬか由来の機能性成分を豊富に含むことで知られています。日本では年々お米の生産量が減少しているため、米ぬかの発生量も減ってきてはいますが、今では全体の約60%の米ぬかがこめ油に使われています。しかし米ぬかから取れる油の量は、他の植物油と比較してとても少なく、わずか14%程度。これは玄米に換算すると約1%しかなく、非常に貴重な油です。その一方で、こめ油をつくる時には多くの副産物が出ます。米ぬかから油分を抽出する時は脱脂ぬかが、油分を精製してこめ油にする時には非食用の油が得られるのですが、実はこれらの副産物にも、まだ米ぬかの有効成分が豊富に含まれているのです。

 

貴重な米ぬかをほんのわずかな量でも無駄にしないために。私たちはこめ油の製造を通して、脱脂ぬかや非食用油など、米ぬかの副産物の特性に応じてさまざまな用途に「分けていく」ことで、より多様な価値を生み出すことを大切にしています。こめ油の事業を通して、こめ油とその副産物の全てに価値を見いだすことこそが、米ぬかの高度利用につながると考えているためです。

 

脱脂ぬかの用途としては、主にキノコ栽培の菌床培地や家畜の配合飼料、そのほかに漬物のぬか床などがあります。古くから米ぬかは肥料や飼料にも活用されており、これらの用途はお米によるSDGsの先駆けともいえると思います。しかしながら、いずれも米ぬかがそのまま使われてしまうために、それ以上の付加価値を付けにくい分野でもありました。

 

こめ油の精製過程から広がる、無限の可能性。ファインケミカル・オレオケミカル事業

 

農家で生産されたお米は精米メーカーで精米され、その際に生じた米ぬかを用いて、私たちはこめ油をつくっていますが、こめ油をつくる過程でも機能性成分をはじめ、さまざまな資源が生まれます。米ぬかのすべてを余すことなく使うために、当社では「ファインケミカル事業」と「オレオケミカル事業」2つの事業のもと、これらの資源を有効活用しています。

 

まず、ファインケミカルとは、特殊な用途で生産される、高機能・付加価値の高い化学品のことです。築野食品では、米ぬかの機能性成分をその特徴に応じて、化粧品や医薬品などの原料に使用し製品化することで、さまざまな分野で活用しています。それに対してオレオケミカルとは、環境にやさしい資源として注目されている植物由来の油脂を原材料として、製品を生み出す化学のことです。築野食品においては、こめ油をつくる過程で発生した脂肪酸を利用し、インキや接着剤、潤滑油の原料などに使用する工業用の油をつくっています。最近の事例としては、米袋やコンビニおにぎりの包装など、フィルム印刷に使用されている「ライスインキ」と呼ばれるインキが注目されています。このインキはこめ油を精製する際に発生する非可食部が原料となっているのですが、石油を原料とした従来のインキと比較し、CO2の削減など環境負荷の低減が期待でき、多くのユーザーさまにご愛用いただいています。

 

ファインケミカルとオレオケミカルという2つの事業においても、原料はこめ油をつくる時の副産物、つまり本来は捨てられてしまうものです。そのため廃棄物やCO2の削減といった環境問題への貢献だけでなく、米ぬかも、こめ油も、すべて食糧として確保できるため、「食糧の確保」という現在の日本が抱える問題にも貢献します。これはサステナブルな循環が実現している、まさに循環型社会に貢献したビジネスであるといえるでしょう。

 

米ぬかと歩み続けた75年、さらなる夢とともに未来へ

米ぬかからはこめ油だけでなく、その副産物からもほかの製品に生まれ変わる、無限の可能性を見いだすことができます。貴重な米ぬかを無駄にせず、お客さまのニーズにお応えし、地球全体が抱える環境や食糧などの問題に寄与しながら、新しい価値を生み出していく。それがこめ油の専業メーカー・築野食品におけるこめ油事業の大きな意義であると考えています。

 

私たちは社内で「We have a dream in Rice Bran. ~米ぬかに夢を託して~」という言葉を掲げています。これは築野グループの現社長・築野富美が掲げた言葉なのですが、弊社では社長をはじめ、従業員の全員が目を輝かせて米ぬかの夢を、そして将来を語っています。現在職員は約520名、一人ひとりがその夢を実現すべく、日々まい進しています。米ぬかの可能性は無限大です。私たちはこの言葉を胸に、これからも社員一丸となって、みなさまに米ぬかを通して豊かな暮らしをお届けし続けてまいります。

 

〈プロフィール〉

築野 卓夫(つの たくお)

京都大学農学部食品工学科卒業。同大学院農学研究科修了。1981年築野食品工業株式会社入社。85年築野食品工業株式会社取締役就任。90年築野食品工業株式会社専務取締役就任。95年築野運輸株式会社代表取締役社長就任。2001年築野食品工業株式会社代表取締役副社長就任。20年築野グループ株式会社取締役副社長就任。

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