つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
松浦 達也様
松浦 達也先生
事業内容 :(研究内容)健康寿命を延ばす食品成分に関する研究
話者 : 安田女子大学 家政学部 教授 松浦 達也

カテゴリー:

医学と栄養学の側面から考えるお米の機能性成分と健康効果。

お米には、パワーの源となるでんぷんの他、タンパク質や脂肪、ビタミンB1やビタミンEなどの栄養素が豊富に含まれています。これらの成分にはさまざまな機能があり、私たちの健康的な暮らしに欠かせません。その働きについて、健康寿命を延ばす食品成分に関する研究をされている、医師であり安田女子大学家政学部教授の松浦達也先生にお話をうかがいました。

 

医学という視点で栄養学を学ぶと見えてくる、「予防」と「食事」の関係性

私は1983年に広島大学医学部医学科を卒業した後、郷里の島根医科大学第2内科に入局し、消化器内科医として臨床やさまざまな研究に携わりました。専門は生化学と栄養医学です。現在は家政学部で栄養学を教えております。また公益社団法人日本ビタミン学会という学会の会長を務めておりまして、「ビタミン学」の研究と発展に尽力しています。

 

実は鳥取大学医学部にいた時も栄養教育を実際やっていたんです。管理栄養士さんや臨床医の先生も巻き込んで、「医科栄養学」という、基礎栄養学から臨床栄養学を一貫して教えるような、そういう科目を全国の医学部に先駆けて開講したんです。他大学でも基礎栄養学や臨床栄養学は教えてはいるのですが、いろんな科目の中で別々に教えることがほとんどで、それを一つにまとめた科目として教えるっていうのは全国で初めてだったようです。臨床や栄養関係の学会に行って、それを話したら、「すごいことですね!」と驚かれました。

 

医学に付随して栄養を学んでいくと、「これは治療よりも予防だ」ということが、かなり見えてきました。つまり、毎日の食事が大事だということ。もちろん運動も大事なんですが、運動と食事というのは、健康を支える両輪なんですよね。じゃあ食事で大事なのは何かというと、栄養素ですね。食事は日々取り組める健康対策です。ですから、栄養に関する知識を深めることは、非常に大切です。私たちは栄養素が持つ健康に役立つ可能性を探していきたいと、そういった気持ちで研究を続けています。

 

ビタミンの歴史に、「米ぬか」あり

松浦 達也先生

お米にはさまざまな栄養素が含まれていますが、特に麦芽米や玄米は白米に比較してビタミンの含有量が多く、とりわけ玄米は「ビタミンの宝庫」と呼ばれるほどです。ということで、お米にゆかりのある栄養素、そして私の専門であるビタミンについてお話したいと思います。

 

ビタミン発見の歴史には、実は日本人が深く関わっていて、お米が大きく関わっていることをご存知ですか?後に東京慈恵会医科大学を創設された高木兼寛先生が1880年に海軍病院の院長に就任された当時、日本では脚気(かっけ)による死亡者数が1万人を超えており、脚気は結核と並ぶ2大国民病でした。海軍でも3割以上の兵員が脚気にかかっていました。

 

その原因は白米食と言われています。江戸時代の頃は白米は身分の高い人しか食べられないものでしたが、明治時代に入ると玄米に代わって白米が普及するようになり、それまで主に玄米を食べていた人々にも白米食が広がりました。お米の胚芽に多く含まれるビタミンB1は精米によって取り除かれてしまうため、白米食が広がったこと、さらに当時はおかずが少ない食事スタイルだったことでビタミンB1不足が生じ、発症が増えたものと考えられています。しかし当時はまだ、ビタミンという概念はなかったので、原因は特定できず、謎の奇病とされていたようです。

 

高木先生はイギリスに留学して疫学研究を学んでおられましたので、航海中に白米食を洋食に変えると脚気が良くなるという疫学データから、海軍の兵食を白米から副食との栄養バランスを考えたパン食、麦食に変えることで脚気を絶滅させました。また、オランダのエイクマン先生はニワトリに白米を食べさせるとヒトの脚気に似た病気になること、玄米や米ぬかを与えただけで簡単に治ることを発見しました。これを受けて、米ぬかに含まれる未知の物質を特定する研究が盛んになったのです。

 

そして、日本のビタミンの歴史にもう一人欠かせない方が鈴木梅太郎先生です。彼は東京帝国大学農学部(現・東京大学)の教授で、1910年に米ぬかから「アベリ酸」という抗脚気因子を世界で初めて抽出することに成功されました。そして同じ年に「オリザニン」と改名してドイツの学術雑誌に投稿されましたが、「これは新しい栄養素である」という1行が訳されていなかったため、オリザニンは世界的な注目を集めることなく、1911年にポーランド人のフンクにより単離され、「ビタミン」と命名されて広く使われるようになりました。これはオリザニンと同じもので、現在のビタミンB1に当たります。ビタミンの名づけ親こそフンクですが、わが国では鈴木梅太郎先生が「事実上のビタミンの発見者」として認識されています。

 

健康寿命を伸ばすための秘訣は「お米」を食べること

食料は人間の生命の維持、そして健康で充実した生活の礎として重要なものです。すべての人が健やかな生活を送ることができるように、食料安全保障という観点からも、わが国の食料自給率を上げないといけません。その中でも主食としてのお米の自給は、何としても維持しなければならないと思います。

 

日本は世界トップクラスの長寿国です。中でも、100歳以上の高齢者数は1998年に初めて1万人を突破して以来増加を続け、2023年は9万人を超えており、数字で見ても「人生100年時代」の到来を予感させます。しかしながら、平均寿命に対して健康寿命は依然10歳前後の開きがあります。近年、健康寿命が100歳を超えている「百寿者」の研究も進んでおり、食事内容を含め食生活について解析されています。その中でも、3食きちんとバランス良く食事を摂取している方の割合が多いようです。また、ご飯を含めた主食は9割の人が「毎食」摂取しているというデータもあります。

 

今は和食が世界的なブームになっています。それに対して日本の若い人においては「コメ離れ」が進んでいますが、農耕民族の遺伝子を持つ日本人が西洋食を主体とする高カロリー食にシフトしたことで肥満、メタボなどの問題が起こってきました。生活習慣病などのリスクも考えて、これからはお米の素晴らしさを見直してほしいなと思います。私も研究者としてお米の魅力を正確に伝えることで、ご飯を食べる人が増えることを期待しています。

 

そして健康寿命を延ばすためにもう一つ、目を逸らせない問題が「認知症」です。超高齢社会に突入した日本では、認知症患者数が増加の一途をたどっています。中でも認知症とも関わりの深いアルツハイマー病や神経変性疾患・パーキンソン病など、加齢に伴い発症率が増加する疾患の対策が急務となっています。しかし、これらの疾患のほとんどは、まだ根本的な原因がよくわかっていない難病であり、残念ながら有効な治療法に乏しいのが現状です。そんな中、これまでの研究において、米ぬかに含まれるトコトリエノールが、アルツハイマー病やパーキンソン病の進行抑制に効果がある可能性が示唆されました。こめ油にはトコトリエノールが含まれているので、それらの患者さんに対する効果の検討も必要であると思います。

 

お米は、可能性の宝庫!病気を防ぎ、健康寿命を延ばす研究をこれからも

松浦 達也先生

私は大学を移って、現在は管理栄養科で栄養学について教えているのですが、やはり医者ですので、病気を治すこと、そして予防としていろいろ出来ないかと常に考えております。健康寿命を延ばすためにも、病気にかかるその前に防げるような機能性成分を見つけたいと思っています。

 

お米や米ぬかの中にはまだ解明されていない、未知のものがあるかもしれない、そう思います。お米には多くの品種があり、品種により風味、粘り、甘みなどに違いが見られ、様々な味を楽しむことができます。また、調理法によっても多くの味を楽しむことができます。私は日本酒も好きですので、酒米によって味が随分違うことも実感しております。

 

また、精米時に出てくる米ぬかには多くの機能性成分が含まれており、こめ油はもちろんのこと、健康に役立つ成分が豊富です。この本来廃棄される米ぬかからこめ油をはじめとして様々な成分を生かした商品を開発し、販売しておられる築野グループは、まさにSDGsに積極的に取り組んでおられる企業であり、今後もぜひ継続していただきたいと思います。

 

また、日本ビタミン学会会長の立場で意見を述べさせていただくと、米ぬかの機能性成分は未知の新規生理活性を持っている可能性があります。ビタミン学会の会員にはビタミンのみならず、その他のバイオファクターの研究者が多くおられます。このような研究者の研究を後押しするためにも、多くの食に関わる企業の方にビタミン学会への参加をご検討いただきたいと思います。

 

 

 

〈プロフィール〉

松浦 達也(まつうら たつや)

広島大学医学部医学科卒業。同大学院医学系研究科修了(博士(医学))。島根医科大学医学部附属病院助手を経て、2000年より米国ピッツバーグ大学に留学。帰国後の03年より鳥取大学医学部講師に就任。同大学助教授、准教授を経て、09年教授に就任。19年より22年までは副学長を務めた。22年より現職。日本ビタミン学会会長、日本酸化ストレス学会理事、日本コエンザイムQ協会理事、日本生化学会理事(17〜19年)、日本生化学会評議員、日本臨床栄養学会評議員、日本機能性食品医用学会評議員など幅広く活躍。07年鳥取大学研究功績賞、08年鳥取大学医学部教育功績賞受賞。

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