SDGsへの取り組みや環境意識への高まりを背景に、「米ぬか」から抽出される「米ぬか原油」を原料とした「ライスインキ」が開発され、その存在感を増しています。この環境にやさしいライスインキの開発と普及を推進する東京インキ株式会社は、原料にこだわり、国産ライスインキの汎用化を実現。その一翼を担った川邉和也さん、大野直隆さん、中舘郁也さんに、これまでの歩みを振り返っていただき、ライスインキが持つ可能性についてお話を伺いました。
お客様から「環境にやさしいバイオマスインキをつくってほしい」という要望があり、それに応えるかたちで、2014年頃からバイオマス由来の材料を使ったグラビアインキの構想を練り始めました。一口にバイオマス原材料と言っても、トウモロコシやサトウキビ、稲わら、廃食用油など、種類はさまざまです。その中から、当社は「米ぬか原油」に着目しました。米ぬか原油は、玄米から白米にするときに出る米ぬかから抽出され、食用こめ油を作る過程で非食用部分が取り除かれます。この非食用部分を有効利用することで、当社独自のグラビア印刷用ライスインキができるのではないかと考え、開発に至りました。
ライスインキは、当初、チラシやパンフレットなどの紙向け印刷インキとして誕生し、食用のこめ油が使用されていました。その後、非食品由来の材料を使った新たなインキが開発され、これにより表刷り用途にも対応。コンビニのレジ袋やおにぎりの包装、米袋など、包装フィルムの表側に印刷する用途に使用されるようになりました。しかし、ポテトチップスや冷凍食品のパッケージのように、フィルムの裏側に印刷する裏面印刷用のインキはまだ存在しませんでした。そこで、当社はパッケージの7~8割が裏刷りという状況を考慮し、裏刷り用ライスインキの開発に重点を置くことにしたのです。
「ライスインキ」と聞くと、食べられるものを工業材料として使っていると思うかもしれません。しかし、当社のライスインキは米ぬか原油の非食品部分、つまり本来であれば捨てられるはずだった廃棄物を有効活用しています。これは世界的に深刻化している食料危機を踏まえたものであり、SDGsの目標のひとつである「飢餓をなくそう」にも合致するものです。
時代の変化とともに、パッケージは食品の安全や鮮度を守るだけでなく、SDGsの推進や環境への配慮も求められるようになってきました。この声に応えるために、当社では植物の中でも非食品部分を活用し、従来の石油を原料としたインキよりもCO2排出量を削減しています。さらに、国産にこだわることで、輸入品と比べて輸送距離が短くなり、輸送マイレージを低減。非食品かつ国産のライスインキを使用することにより、持続可能な社会の実現に貢献できると考えています。
持続可能な社会を実現するためには、地域での生産と消費を結びつける地産地消も重要な役割を果たします。食品メーカーや精米会社がコメから米ぬかを分離。食油メーカーがそこから食用油を抽出し、非食品部分を取り出します。この非食品の油脂からできた樹脂を使って当社がライスインキをつくり、そのインキでおにぎりの包装や米袋などに印刷されます。そしてそれが再び食品メーカーや精米会社へ戻り、「コメ」を基軸としたバイオマス資源の循環が生まれるわけです。
地産地消を実現するためには、国産原料の利用が欠かせません。日本ではコメの自給率がほぼ100%に近いため、その副産物である米ぬかを活用することで、国産のライスインキをつくることができます。国産ライスインキの定義は一様ではありませんが、マスバランスを考慮しても当社のライスインキは8割ほどが国産原料でつくられています。バイオマスインキ市場を見渡してみると、非食品部分を使ったインキはありますが、当社のように国産原料の割合が高いライスインキは珍しいと言えます。
当初に比べると、ライスインキの存在感は明らかに増してきていますが、「広く使われている」とは言い難いのが現状です。この課題を解決するために、まずはライスインキの普及に力を入れていくことが大切です。特に、米菓や日本酒など、コメに関連する食品を扱っている企業や国産品にこだわりを持っている企業との親和性が高いと感じています。米ぬか原油からは、食用の米油と非食用のインキ用原材料がつくられるため、食べられる部分は米菓などの食品に、食べられない部分はパッケージに使うことで、新たなサイクルを生み出すことができるからです。
もちろん、当社だけでは限界がありますので、原料メーカーと協同して普及活動を行うことが不可欠です。ライスインキの普及により、コメに関連する企業とのつながりが深まり、ひいては日本のコメ産業全体の発展に貢献していきたいと考えています。