つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
伏木 亨様
伏木 亨先生
事業内容 :(研究内容)こめ油のおいしさとそのメカニズム:京料理の視点から
話者 : 甲子園大学 学長 伏木 亨

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こめ油のおいしさとそのメカニズムを、日本の伝統・京料理の視点から紐解く。

素材本来の味を引き出す、上品な味わいが人気の京料理は、長い歴史の中で発展を遂げ、現在に伝承されている日本が誇る伝統料理です。京都の老舗料亭では、こめ油を好んで使用されています。料理人たちの間で大人気というこめ油の魅力について、おいしさのメカニズムの解析に関する研究の第一人者であり、甲子園大学・学長/京都大学・名誉教授の伏木亨先生に伺いました。

 

京料理が衰退の危機に!?日本の食文化を守るために、料理人と研究者が立ち上がった

私の専門は食品科学・栄養化学で、普段は「油脂やダシのおいしさのメカニズムの解明」「おいしさの客観的評価手法の開発研究」をテーマに研究をしています。そんな私がなぜ、京料理について、そしてこめ油について研究を始めたか、そのきっかけは20年ほど前に遡ります。

当時は京料理が斜陽産業と言われていた時期でもありました。そんな時、京料理の料理人さんたちに「これから先、どうにもなりません。何か良案はありませんか」と、京都大学にご相談をいただいたのです。彼らは伝統を守って必死にやってきたものの、「京料理はもう古臭いと言われている」「イタリアンやフレンチのお店がいっぱいできて、高い京料理の店には誰も来ない。今日のお客さんなんて2組だった」というような、悲観的な話ばかりしていました。

 

料理人さんたちの話を聞いて、「日本の伝統料理をここで絶やしてはいけない。未来につなげなければ」という強い気持ちが生まれましたが、それは私だけではありませんでした。そんなわけで、「これからもっと京料理をおいしくしていこう!」と料理人さんたちと京都大学の教員たちが決起し、共同研究が始まったわけです。「『伝統を守っています』という顔をしながら、京料理のイメージをゴロッと変えていこう」ということをモットーに、会合はひと月に1回くらい。料理人さんたちの仕事が終わってからなので、いつも21時くらいから始めて喧々諤々やって、終わるのはもう夜中でしたね(笑)。それを20年近く続けてまいりました。

 

そのこともきっかけとなり、日本の京料理、日本料理、あるいは日本酒も含めて、日本のものを、食を活性化すべく、「ユネスコに無形文化遺産に登録をしよう」と、農林水産省や文化庁と一緒に活動しておりました。そして2013年12月にめでたく実現し、今では登録から10周年を迎えることができました。京料理も日本料理も、世界の人たちの注目を集めておりますし、今では「日本に来る目的は何ですか?」と観光客に聞くと、「日本の料理を食べたいから」という回答が非常に多くなりました。ある時は70%を超えたとか、そういうご報告もありうれしい限りです。

 

京料理のほとんどに使われるほど、料理のプロが絶賛するこめ油

料理人さんたちとの共同研究を始めて知ったことがあります。さまざまな種類の調理油がある中で、彼らはほとんどの料理にこめ油を使うんです。動物性の油をあまり使いません。京料理には、こめ油が欠かせないもの。もう圧倒的に「こめ油ファン」なんです。

 

京料理の料理人さんは油によって素材の苦味や渋味を軽減させるということに早くから気が付いていて、随所に油をうまく使っているように思います。たとえば野菜の煮物などには、油揚げが入っています。一緒に煮ることで、コクや旨味が増しておいしくなるからです。このように油を使いながら、野菜のおいしさをぐっと引き立てるというのは、かなり昔からある、京料理ならではのテクニックであります。

 

京料理には油を使う料理、揚げ物も多いんです。たとえば天ぷら。天ぷらと言うと、江戸で流行ったものというイメージが大きいかもしれませんが、実は京料理でもかなり昔から作られていました。見た目も華やかですし、今のお客さんの好みにもとても合いますし。そんなわけで揚げ物って、意外にたくさん使われていますし、コースのメインディッシュにもなっています。揚げ物においても「こめ油は食材がきれいに揚がる!」と、料理人さんの間でも高評価です。

 

 

「おいしさ」と「使いやすさ」を兼ね備えたパーフェクトオイル・こめ油

京料理の料理人さんたちにこめ油がこれほどまでに愛されるのはなぜだと思いますか?結論から言ってしまうと、「こめ油はあっさりしていて、べたつかない」ということに尽きると思います。彼らが言うには、「他の油を使うと仕上がりが全然違う!」のだそうです。「こめ油は油臭くないし、べたつかない。あっさりしているし、繊細な味になる」というようなこともみなさん、口を揃えて言っています。

 

「油臭くない」というのは、繊細な味を大切にしている京料理において非常に重要なポイントです。以前、料理人さんたちに思い切って聞いてみたことがあるんです。「京料理において、どういうものがおいしいと考えているのですか?」と。すると、返ってきたのは「障りが少ない」という意外な答えでした。ちなみに「障りが少ない」というのはどういう意味かと言うと、「クセがない」ということです。京料理は繊細であるからこそ、素材の香りや味を邪魔しない油を使うことが仕上がりの決め手になるのです。

 

また、「おいしさ」の話から少し逸れてしまいますが、こめ油は加熱しても他の油に比べて粘度が上がりにくいのでサラッとしており、べたつきません。そのため洗い物が楽になると言う点も、料理人さんたちの間で人気のポイントです。このような現象の科学的な根拠に関しては、様々な文献や報告によって立証されています。

 

こめ油は、日本の素晴らしい食文化を未来につなぐ架け橋になる

実はこめ油について、研究を始める前は私もあまり知らなかったのですが(笑)、今となっては知れば知るほどに魅力的な油だと思います。その証拠に、最近はこめ油をさまざまなところで目にしたり、その素晴らしさを知ってファンになる方も増えてきているように思います。

 

築野食品工業さんは創業当時、戦後間もない時期というものすごく早い段階からこめ油の良さを認識しておられて。それで京都の料理屋さんたちにも、どんどんこめ油を薦めてこられました。先に申しました海外旅行客の日本料理人気もそうですが、京料理もこめ油に助けられた部分は非常に大きいと思います。そういった意味では、時代を超えて京都の、そして日本全体の食文化を支える企業であると思います。これからもこめ油の持つ素晴らしさを多くの方に広めていただきたいと思います。

 

和食の文化を守り続けることは、同時に食の歴史を未来へつないでいくことでもあります。日本の食の文化って非常に特殊ですが、それだけにとても素晴らしいものです。日本人の価値観や感性が映し出されていますから。ですから、日本料理の中に込められている日本のこころを、さらに世の中に広めていけるような活動を私もしていきたいなと思っています。そして「おいしさへの感受性を高める」ことも、非常に大事な点だなと思っていますので、これをできるだけ多くの方に分かっていただけるように、これからもアンテナを張り続けてさらなる研究をしてまいります。

 

 

〈プロフィール〉

伏木 亨(ふしき とおる)

京都大学農学部卒業。同大学院博士課程修了(農学博士)。1994年京都大学農学研究科食品生物化学専攻教授に就任。2015年より龍谷大学農学部食品栄養学科教授等を経て、21年より甲子園大学副学長に就任し現職に。日本栄養・食糧学会評議員・参与、日本料理アカデミー理事、和食文化国民会議会長など幅広く活躍。08年安藤百福賞、09年日本栄養・食糧学会賞受賞、14年紫綬勲章受章ほか受賞歴多数。著書に『コクと旨味の秘密』(新潮新書)、『人間は脳で食べている』(ちくま新書)、『味覚と嗜好のサイエンス』(丸善)、『だしの神秘』(朝日新書)ほか多数。

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