つい、お米を食べたくなる
そんなお話。
東洋ライス株式会社
本社所在地 :和歌山本社:和歌山市黒田12
銀座本社:東京都中央区銀座5-10-13 東洋ライスビル
話者 : 代表取締役 雜賀 慶二様
ウェブサイト : https://www.toyo-rice.jp/
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挑戦を続ける原点は、「日本のコメのポテンシャルを引き出し、その魅力を世界に伝えたい」という使命感

東洋ライス株式会社は、東京・銀座と和歌山市に本社を置く、お米に関する総合メーカーです。社是「技術を創造し、広げ、社会に高度の貢献をしよう」のもとに、コメ業界だけでなく日本社会全体、さらには世界を見据えた企業活動を行ってきました。業界をけん引する数々の挑戦を続ける原点にある熱い想いと、同社のこれからについてお話を伺いました。

設立から60周年、これまでの発明の意義を知って欲しい

当社は2021年に60周年を迎えました。これまでコメに関する機械や技術を数多く発明してきましたが、一般の方にはあまり知られていません。そこで、60周年を記念してその意義やストーリーをより多くの人に知ってもらおうと考え、当社に関するクイズに答えて応募してもらうというキャンペーンを実施しました。

 

これがなかなか難しくて、例えば「この機械は何を取るものでしょう?」といった、一般の方にはすぐわからないようなものばかりです。でもこのクイズに答えることで、今まで知らなかった人にも当社の発明について知ってもらいたいと思ったのです。賞金も1人に1000万円、3000人に1万円が当たるというインパクトもあり、結構反響がありました。

 

クイズを通して一番知ってもらいたかったことは、当社が様々な技術でコメ業界を変えてきた歴史です。今では、北海道から沖縄まで全国の米穀業者等で当社の様々な技術を使っていただいておりますが、当社の機械が関わるものは無洗米だけでも年間45万トンほど世の中に出ています。そういった技術開発の経緯やストーリーの部分に親しみを持ってもらいたいと思ってキャンペーンを行いました。これからも会社のストーリーを伝える活動はぜひ続けていきたいと思っています。

 

世界初の無洗米の開発 その裏で感じた逆境と手ごたえ

当社は1991年に世界で初めて無洗米を開発しましたが、当時は「コメは洗うもの」という概念しかなかった時代。「洗わないコメなんて、何を言っているんだ」というマイナスからのスタートでした。とぎ汁を川に流さなくて済むので、当社としては環境に優しい商品として売り出しましたが、予想に反して「洗わなくてよい手軽さ」で徐々に世間に受け入れられるようになりました。マスコミも「忙しい主婦に朗報!」という見出しで記事を出す始末。最後に「環境にも良いらしい」と一言書かれていたくらいです。

 

生活協同組合で商品を取り扱ってもらったことも転機のひとつでした。最初は断られたものの、粘り強く交渉して実際に商品を試してもらい、無洗米の価値をわかってもらえたんです。そうして当社の商品の良さをわかってくれる人に地道に働きかけ続けた結果、少しずつ無洗米が普及していきました。

今では、無洗米の存在はスタンダードになって、病院や学校、飲食店などで広く使われるようになりました。

 

共同研究・物流改革 新たな取り組みで業界をけん引

当社は、2019年から東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターとの共同研究をスタートしました。米ぬかが人の認知機能に及ぼす効果に焦点を当てて、玄米食を続けることで認知機能維持や認知症予防にどのような効果があるのかを検証しています。現状は新型コロナウイルスの流行で、お年寄りに対面で聞き取り調査をすることが難しい状況が続いていますが、今後の進捗が楽しみです。

 

また、全農さんと協働して玄米の物流改革にも着手しています。今までは30キロの米袋で流通していたものを、1トン単位のフレコンという袋で出荷しようという動きです。小分けする手間に加えて、袋のコストとゴミも減らせるので、徐々に認知を広げていきたいですね。当社は精米機メーカーですから、最初は機械の販売だけをやっていました。でも今では、無洗米の加工や金芽米の開発、流通の問題、さらには健康問題にまで取り組む範囲が広がってきています。

 

今はコメの価格が年々下がってきています。消費者にとってはいいかもしれませんが、結局は生産者や米屋にしわ寄せがいって、長続きしないやり方だと思います。そうなると生産者の跡取りがいなくなり、ますますコメ業界は厳しくなる。コメの価格を底上げして、適正な取り引きになるように、当社でできることはどんどん取り組んでいきたいと思います。

 

企業活動の根底にあるのは「日本を良くしたい」という使命感

当社はいつの時代も、それまで世の中に存在しなかったものを開発してきましたが、その背景にあるのは「私がなんとかせんといかん」という使命感です。令和3年に公表された厚生労働白書で、医療費や介護費・年金・社会保障費などの見通しが掲載されました。これからの社会を支える若い世代がどんどん減り、国の税収よりも支出が増える中で、日本はどうなるんだろうと心配しています。

 

このままでは日本がダメになるという危機感で色々と行動しています。30年ほど前に環境を守りたいと考えて無洗米を発売したときも、周囲は「なんか妙なことを言っているな」という反応でした。でも今はSDGsで企業から個人まで環境問題に取り組んでいるでしょう。

 

主食であるコメを食べることで日本人が健康になれば、医療費も社会保障費も抑えられます。少しでも長い期間を元気に暮らせるほうが幸せですから、そんな社会になるように私たちが変えていかなければいけないと思い、玄米の要部を残し、美味しく食べられるコメを開発し、普及に務めています。

 

新しいものを世に出し続ける 時代を読む先見性

(取締役 企画広報部部長 関 博行様)

私はこの会社で38年働いていますが、雜賀社長の先見性にはいつも驚かされます。無洗米が発売された当時、昔、和歌山市にあった丸正百貨店の店頭に私も立っていました。「環境にいい商品です」とおすすめするのですが、お客さんの中には怒る方もいて。「とぎ汁を流さないと川に餌がなくなる」とか「とぎ汁が環境に悪いはずがない」とか、そのときは正直に言って仕事が面白くないんですね。

 

でも、時代が追いついてくると、どんどん面白くなってきます。それは無洗米に限らず、すべてにおいてそうなんです。金芽米を作った時も、健康に良さそうというのは理解できるけど、時代がその流れについてきていませんでした。しかし今は、みんなが健康に良いものを探して買うようになっているでしょう。最初は「こんなの売れるのかな」と思っても、結局は時代を先取りしていたという体験を何度もしてきました。

 

今の世の中は、色々なものがすでに作られ尽きた状態ですよね。その中で常に新しいものを出し続けられる会社って、なかなかないと思います。

 

日本のコメを世界へ 東洋ライスの今後の挑戦

2016年から取り組み始めた世界最高米の事業は、今年で6年目に入りました。この活動の目的は、国際社会に日本のコメの魅力を伝えることです。当時は「これから日本もコメの輸出をしよう」と言っていた時代でしたから、その素晴らしさを伝えたいと思いました。世界最高米は、「Most expensive rice(最も高額なお米)」として、ギネス世界記録Ⓡにも認定されました。

 

当初は1年だけのつもりでしたが、これが非常に好評だったので今も続いています。世界最高米は、米・食味鑑定士協会が毎年開催するコンクールで受賞した玄米の中から、特に品質の良いものを当社が選んで原料としています。生産者にとっては、「自分の作ったものが世界最高米に使われた」というのは特別な栄誉だそうで、大変励みになると言ってくださいます。この事業は収益性が高いわけではありませんが、生産者の希望になれるならと毎年取り組んでいます。

 

当社は今、世界13か国へ主に金芽米を輸出しています。農林水産省が掲げるコメの輸出目標によって、コメの海外への輸出量が拡大していますが、現地で売れるのは一部の商品だけで、店頭に1年も置かれているなど理想と現実には大きな開きがあります。例えば、当社では、数年前よりシンガポールの産婦人科病院で患者さんの食事に金芽米やロウカット玄米を使ってもらっていますが、妊婦さんたちが産後も調子が良いということで、大変評判が良いです。輸出のコストで値段が高くなるのは仕方がないことなので、単なる炭水化物としてではなく薬としての付加価値をつけたコメで輸出し、きちんとその価値、つまり健康効果を伝えることで、日本のコメの価値が上がるはずです。

 

当社もそれほど大量に売れているわけではないですが、海外の購入はほとんどがリピーターによるものです。日本のコメは美味しくて安全であること、そして栄養価も高いことを伝えて、少しずつクチコミで広めていっています。しっかり価値をつけて売っていけば、国内の休耕地が減ってコメの適正な取り引きにもつながっていくと信じています。

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